小児科 すこやかアレルギークリニック

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2.7倍
2012/09/27
一昨日の夜のNHKニュースで、RSウィルスが流行していると報道されていました。

確かに、当院でも既に何人も確認しています。本来、冬に毎年のように流行るので、今年は早いなと思っていました。

RSウィルスは高熱が続き、咳もひどくなるのが特徴です。母のへその緒からもらった免疫が全く効かないので、生後1〜3か月でもいとも簡単にかかってしまいます。当院でも、先日生後2か月の赤ちゃんでRSウィルスが陽性なのを確認しています。

私としては、ぜんそくや呼吸器疾患にも力を入れているため、RSウィルスはなるべく見逃さないようにしています。ただ、同じ患者さんを診ても、風邪とか言われているケースも見かけます。アレルギーだけでなく、医師の診断能力の差も結構出ると思っています。

これは以前あった話ですが、咳と鼻が出て、他院で風邪と診断されていた赤ちゃんが、改善がないという理由で当院を受診されました。この子は生後3か月だったのですが、よく考えると、先ほど述べたように母からの免疫をもらっているので、風邪など引きにくい時期です。しかも、痰絡みのひどい咳、ジュルジュルの鼻水が出ています。

親御さんでも「ただの風邪ではないな」と感じているのを、風邪と言い切る根拠を聞いてみたいものです。RSウィルスを疑い調べてみるのですが、これはインフルエンザの迅速検査のように、鼻に細い綿棒を入れ、鼻水をもらうと開業医でも簡単に調べることができます。流行期ですと、だいたいRSが出ます。

そうなると、これはもはや“風邪”ではなく、呼吸困難を起こし、入院に至る可能性のある怖い感染症です。症状は軽いものから重いものまであります。機嫌もよく、飲みも良い状態なら様子をみても良いのですが、それも悪くなり、低酸素に陥ることもあります。こうなれば入院は避けられません。

一昨日のNHKのニュースで、全国的に流行しており、昨年の2.7倍の報告があると言っていました。普通に考えると、乳児を中心に呼吸困難を来しうる感染症が今年はそんなに多いのかと怖く感じます。確かにそうなのですが、私はその2.7倍という数字に問題点を感じます。

実は、この場でも指摘していたのですが、保険診療の問題です。これまではRSウィルスは入院した患者さんのみ検査が保険診療で賄われ、開業医が外来で調べると、検査費用は医院も持ち出しになっていました。つまり、検査するだけ医院の損になるのです。

そういうこともあるのでしょうが、当院が上越市に開業した時にRSウィルスと診断すると保育園や幼稚園の先生から「何ですから、それ」といわれることが多かったのです。

これも敢えて言わなければなりませんが、食物アレルギーの診療に「食物負荷試験」が不可欠だと繰り返し言っています。ただ、負荷試験をやっていない医師は、そんな検査の存在すら患者さんに伝えていないことに大きな問題を感じています。患者さんには「朝鮮半島の某国と一緒だ。都合の悪いことは伝えられていないんです。」と言うこともあります。

で、RSウィルスも検査をすると費用が医院の持ち出しになるため、調べない医師もかなり多かったのです。それではRSウィルスの流行なんて、正確に判断できるはずもありません。流行っているのに、“流行っていない”なんてことになるのです。

実際に、2年程前の冬に大流行した時に、当院では11月下旬から翌年の4月にかけて83人のRSウィルスの患者さんを確認したのに、市内の感染症情報によると、たったの3人でした。残念ながら、医師によって感染症の情報はねじ曲げられてしまっているのです。

申し訳ないですが、講演の時にこのデータは“悪い例”としてよく使わせて頂いています。多くの患者さんが「お医者さんの言うことは正しい」と思っていますが、アレルギーのみならず、感染症でも「そうではない」ことを明確に表しています。

実は、ルール変更があり、昨年から1歳未満の赤ちゃんに関して、外来で調べることが保険診療で認められました。損をしないとなると、当然調べる医師も増えてきます。

実際に、それ以前は調べなかった医師が「怖い病気があるから調べさせてくれ」と言い、調べるようになったそうです。そうなると、例年の2.7倍に増えているという話はどこまで本当かと思ってしまいます。

親御さん達にもRSウィルスの知名度が上がってきて、場合によっては、患者さんが「RSウィルスを調べて下さい」と言うこともあるようです。

当院では、1歳以上で、保険で賄われない年代であっても、必要と判断すれば調べています。高熱が続き、咳もかなり悪化するので、特効薬がないのですが、病名が分かることで安心したり、注意点を示すことができるからです。

当院ではないと、1歳以上の場合は、私ならRSウィルスを十分に疑う状態であっても「こんな軽いRSウィルスはない」と言ってみたり、「あぁ、1歳以上は大丈夫」なんて根拠のないことを言って、のがれる場合もあるようです。

私自身も積極的に「損」をしたいとは思いませんが、特に乳児が呼吸困難を示し、仮に1歳を過ぎても高熱が5日以上続くこともあります。病名を明らかにすることで、親御さんに安心を与えられる部分は大きいと思っており、「何のための検査なのか?」、「誰のための医療なのか?」ということをよく考えて頂くいいテーマだと思っています。

先の2.7倍というデータも、1歳未満の赤ちゃんにのみ多いと言うかなり偏ったものなら、真実をどこまで反映しているのか疑わざるを得ないと思っています。

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