小児科 すこやかアレルギークリニック

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「母乳が悪い」
2012/10/16
先日、湿疹で相談に来られた患者さんがいました。

某皮膚科を受診していたそうですが、良くならないため、当院に“鞍替え”された格好です。

生後2か月から湿疹が出て、数ヶ月通院して一旦良くなったものの、ここ最近また悪化してきたとのことでした。ぜんそくの時もそうですが、こういった慢性の経過を辿る病気の患者さんが受診すると、これまでどういう経過だったのかを聞く必要があります。受診の日の皮膚症状しか診ることができないため、“経過”を知るには詳細な過去の状況を知っておく必要があります。

私の場合、「アトピーがあるな」と直感すると、根掘り葉掘り聞いて、「やっぱりそうだ」と確信すると、アトピー性皮膚炎のガイドラインを片手に説明を始める、そういうことを繰り返しています。当院に来られる患者さんの多くが、アトピー性皮膚炎を“乳児湿疹”と誤診されているので、アトピーがあること自体を理解して頂く必要があるのです。

この患者さんは珍しく「アトピーかもしれない」と言われていました。ただ、その後がいけません。アトピー性皮膚炎の可能性を考えたら、筋道だった説明も指導をすべきです。それがありませんでした。

聞き流せない発言として、「母乳が悪い」というものがありました。こう言われれば、多くのお母さんは混乱するはずです。よく言われるように、赤ちゃんを感染から守るために、母乳をこだわって飲ませるようにしているからです。

不用意にこんな発言をするなら、分かった医師に紹介すべきでしょう。患者さんに迷惑を掛けるだけです。医師同士の連携のなさは、上越らしいといえば、らしいのでしょう。

母が食べた卵などの食品が、食べた1〜2時間後に母乳に移行することが知られています。100万分の1から10万分の1とも言われており、微々たる量です。ただ、「塵も積もれば山となる」で、それが赤ちゃんに影響することがあると言われています。

アレルギーの原因であるアレルゲンが、多めに体に入ると蕁麻疹などのアレルギー症状を引き起こし、微量の場合は、そこまで起こす力はなく、“湿疹”としてアトピー性皮膚炎の悪化要因になると言われています。ただ、アトピー性皮膚炎の赤ちゃんの全員がこのように食事で悪化しているかと言われれば、そうとは限らないのです。

食物アレルギーの診療ガイドラインにも書かれていますが、まず軟膏を使ってアトピーの治療をし、それで皮膚症状が改善してしまえば、「食事は関係ない」と判断し、治療しても良くならなければ「何かが足を引っ張っているのでは?」と考え、「食物アレルギーがあるかもしれない」と疑う必要があると言われています。

「母乳の中に母の摂ったアレルゲンが混じっている可能性がある」、「食物アレルギーの関与が考えられるので、アレルギー検査をやってみましょう」などと言うのなら分かるでしょうが、何の根拠もなく「母乳が悪い」と言うだけでは、かえって混乱を招き、悪質とさえ言えるでしょう。医師の発言は重いので、根拠を示す必要があります。

話は変わりますが、うちの子はまだ小さいのですが、ココアがマイブームです。先日の日曜に出かけた際に「ココアが飲みたい」と言うので、コンビニに寄ったら売り切れのようで、売り場に見当たりませんでした。

「売っていなかったよ」と言うと、「日曜日で、ココアを飲みたいという人が多かったんだね」などと言います。うちの息子の方が、よっぽど根拠のあることを言っていると思います。

ちなみに、母乳にはアレルゲンが混入する可能性もありますが、その一方でアレルギーを抑える成分も含まれます。つまり、良いものと悪いものが含まれており、一概に「母乳が悪い」と断じてはいけないことが分かります。

別の皮膚科ではやはり何の根拠もなく、しかもアトピー性皮膚炎と診断していないにもかかわらず「お母さんが卵を止めなさい」と指導しているケースがあります。いわゆる乳児湿疹なら、卵をはじめ、食事を除去する必要性もないはずです。アトピー性皮膚炎と診断されて初めて、「食物アレルギーが悪化要因になっているかもしれない」と考えることができるのです。しかも、“卵のみ”を除去する根拠は何もなく、断片的な知識でものを言っているとしか思えないのです。

アレルギー専門医は、食物アレルギーの関与を考えると採血をさせて頂き、アレルギー検査を行ないます。それで卵白が陽性だと、ここで初めて「卵が悪化要因かもしれない」と考える訳です。ただ、アレルギー検査が陰性でも悪化要因になることもあり、慎重に判断されるべきでしょう。

この辺の指導は一筋縄にはいかず、難しいと言えます。ただ、親バカと言われそうですが、うちの息子の言うことよりも根拠のないレベルの発言をするのは、医師として慎むべきでしょう。テキトーなことを言って、患者さんを混乱させるなら、もやはモラルの問題です。

今日述べたようなことを説明し、アレルギー検査の採血も薦めました。多分、皮膚科医がさらっと一言言った数十倍の時間をかけて、アトピー性皮膚炎と診断されること、母乳との関係、治療などなどを話しました。地元では、誤診をされている患者さんが多く当院を受診し、その“尻拭い”をこうやってやっています。

“一人当たりに時間を掛けずに大勢診た方が医院は潤う”ため、多くの医師がこういう診療スタイルを取っています。私が思うに、病気の軽い人は短くてもいいでしょうが、軽くなければ、慢性の病気なら時間は掛けなければならないのです。当院も同じやり方をすれば、地元の患者さんは行くところがなるなります。

「損な役回り」と言えるのかもしれませんが、診察の最後に「ここに来てよかった」と多くの親御さんが言ってくれるのが、私の支えになっています。

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